待刊

『遊城南記・訪古遊記』 [宋]張礼・[明]趙カン 撰
愛宕元 訳注/定価4,200 円/京都大学学術出版会

唐の滅亡から180年を経た北宋末期の長安紀行『遊城南記』と、そのさらに530年後・明代後期に同地を訪れた『訪古遊記』。両者の翻訳と比較研究により、歳月の流れを示す。考古学的な研究成果と訳者自身による最近の現地調査もふまえ、奈良・京都のモデルとなりながら唐の滅亡後は再び都となることのなかった長安の歴史を描き出す。

▽業績的にいえば、訳注・翻訳は[その他]に分類されるように、学会側のこういった注釈書に対する評価は、驚くほど低い。論文は毎年書かれるが、10年後、20年後の学者に引用されるような論文は、果たして年に何本あるのだろうか。▽ある一つのジャンルで、年間に書かれる論文が200本あるとすれば、大事なのは、おそらく20〜30本くらいだろう。その点、こういった注釈書は、次に同じ書物に対する注釈書が施されるまでの間、ずっと基本文献となり、引用され続ける。その意味で、注釈書の命は長い。一方、それを仕上げるまでの道のりも、人文学は、基本的に蓄積の学問であるため、30年はたまた40年という時間を必要とする。功成り名遂げた大家にこういった注釈書が多いのも、蓄積の学問であるからに他ならない。▽もちろん、内容は未見だが、この一書がどれくらいの生命を保ちつづけることができるのか。そのことを確認するためにも、買うことにしよう。