共同通信社社会部 『凍れる心臓』 共同通信社ISBN:4764104067
 購入してすぐ讀了したのだけど、感想を書いたので、以下にアップ。
 本書は、97年8月から10月にかけて共同通信に加盟しているメディア各社に配信された「30年目の真実 検証・和田移植」(31回)をもとに、大幅に加筆したもの。30年以上も前の事件なので、知らない人が多いと思うので、以下にことのあらすじをかんたんに紹介。
 68年8月8日、日本初の心臓移植手術が札幌医科大學の和田寿郎教授によって行われた。心臓を提供したのは、山口義政氏。海で溺れ、救命治療を施すために病院を転々とした結果、脳死と認定され、両親の同意の下で心臓を提供。一方、移植をうけたのは、宮崎信夫氏。宮崎さんは移植をうけた後、一時的に回復にむかうも、83日後に死亡。手術を行った當時から、疑問や批判の声があがり、大阪の漢方医からの刑事告発を受けて、刑事事件に発展。担当である札幌地検は調査を開始するも、70年9月に嫌疑不十分で不起訴。
 ざっとながめると、こんな感じなのだが、本書は、共同通信社会部移植取材班が、その是非を改めて確認するため、札幌地検の《調査報告書要旨》を基に、當時の医療関係者にインタビューをおこなったもの。當時の移植チーム20名のうち18名が存命で、なかには手術そのものに関わったわけではないが、作家の渡辺淳一氏も整形外科講師として勤務していたりする。
 さて、讀んだ感想はといえば、
 「和田さん、真っ黒」
という一言。結局、立件されなかったのだから和田さんには罪はないのは勿論だが、それにしても、關係者との話が食い違いすぎる。インタビューをおこなった97年前後では、どの人も高齢で記憶に曖昧な点があったり、このことは話たくないと口を閉ざす人もいるのだけど、それにしても、う〜ん??と首をかしげざるをえない。食い違いについては色々かかれているのだが、なかでも重要だと思う点のみあげてみたい。
1、山口義政氏が脳死状態であったのかどうかを客観的に判断することのできる心電図が、胸部外科の医師の手により処分(42頁)。→検察側が証拠不充分で、立件化不能
2、「蘇生のプロ」とされる麻酔科の医師が、胸部外科の医師にわけもなく追い出される(44頁)。
3、山口氏の遺体の検視に和田氏は立ち会うこともなく、検視を行った渋谷氏からも心臓を移植した旨の報告はなかった(60〜62頁)。
4、山口氏の遺体を解剖することなく、手術後の翌日に火葬された(63頁)。→検察側の証拠不充分の一因となる。
 ことこまかな食い違いを指摘するとそれこそもっとあるのだが、どう見ても、「和田さん真っ黒」という心証はぬぐいきれない。日本初の心臓移植手術が、結果として、こんな遺恨を残すような状態なのだから、そりゃ後に続く医師なんていなくなるのも当然。
 和田氏は、共同通信社のインタビューに、

なぜ私の後に二例目、三例目が続かなかったか。残念でならない。東京、大阪と続いていれば、移植は定着したはずだ(18頁)

と答えているが、30年の長きにわたって二例目があらわれなかったその理由は、和田さん、あなたが一番良くご存じなのではないだろうか。