今日の一文
○高島俊男『本と中国と日本人と』ちくま文庫、ISBN:4480039163
学者の仕事の要諦は多く仕入れてすくなく出すことである。言いかえれば、たくさん捨てることだ。
氷山の一角というやつで、表に出ている部分より下にかくれている部分の方がはるかに大きいから安定がいい。全部水面上に出た氷山は浅薄で不安定である。底を見すかされる。
『中国小説史考』は、前野先生が小説について書いた文章を集めたものである。長篇の論文もあるし短いエッセイもある。
いったい昔の一流の学者が書いたものに安心感があるのは、何でも知っていて、つまり広い視野をもっていて、そのうちのある部分について書いているからである。そういう学者は戦後も無論いたが、だんだんすくなくなったような気がする。前野先生はそういう学者である。(「あの世のみやげ話」417頁)
前野直彬『中国小説史考』秋山書店。